เข้าสู่ระบบお父さんの声が、少しだけ静かに落ちた。
「それはね、——地球を回復させるためだよ」
「地球を回復?」
窓の外を見ていたカナタも、運転席のお父さんを見つめた。
「そう。お父さんも、莉愛もカナタ君も、魔法を使う時に“人工魔法石”と“天然魔法石”を使うだろう? この“天然魔法石”っていうのが、地球のエネルギーである”地脈力”が宿っているんだ」
「地脈力……」
授業でその言葉は聞いたことがある。大地に流れる地球のエネルギーで、魔法使いや精霊の魔力の源と言われているんだっけ。
「地球の自然を増やすことで、地脈力を回復させられるから、少しでも自然を増やすために、私たち人間の住む場所を変える必要があったんだ」
お父さんの言葉を聞いて、私は小さい頃のことを思い出した。まだ保育所に通ってた頃、緑の教会の高い窓から、下の世界を見た時のこと。
あの時、空の下には広い雲が海みたいに広がっていて、その雲の隙間から、ちらっとだけ見えた。ずっと下にある、大昔の人たちが住んでいた地上。
何だか遠くて、寂しそうで、でも少しだけ綺麗だった。
お父さんが静かに言った言葉に、カナタも私も黙って耳を傾ける。
「そうして大昔の偉大な魔法使いたちが、空に大陸を作ってくださって、私たち人間は、この空中大陸に住むことになったんだ」
その言葉が、私たちの世界の成り立ちを象徴しているようで、何だか胸が締め付けられるような思いがした。地球が抱えている問題に対して、私たちがどんな方法で向き合ってきたのか、その一端が少しだけ理解できた気がした。
「今も空中大陸が浮き続けていられるのは、中央都市にある巨大な魔法石と、
リョク様——
常盤町にある緑の教会にいる、緑の賢者。カナタが育った養護施設も、私が小さな頃に通っていた保育所も、元は前任の緑の賢者が作ってくれた場所だった。そして今、リョク様はその後を継いだ二代目。最年少の賢者と言われているけど、本当の年齢を知る人は誰もいないらしい。
『リョク様って、見た目は子供ですけど……就任された時、誰も何も言わなかったんですか?』
カナタが、機械混じりの声で、いつものように遠慮のない質問を淡々とする。リョク様と付き合いが長いからか、たまにこうしてちょっと失礼なことも平気で口にする。
お父さんは少し笑って答えた。
「もちろん最初は言われていたよ。子供に都市の未来を任せるのかって、特に政治家たちは大騒ぎだった。でもな……」
車が赤信号で止まり、お父さんは窓の外に目をやった。冬の夜に滲む街灯の明かりが、運転席に光を照らす。
「実際に、二代目のリョク様が人前に立った時——誰も、何も言えなくなったんだ」
その言葉に、私は息を飲んだ。
「どうして?」
私が素直に尋ねると、お父さんは少し言葉を探すようにしてから、ゆっくりと答えた。
「何ていうか……オーラというか、溢れ出す魔力というか……難しいな。でも、みんなが自然と思ったんだよ。『あぁ、この人は賢者だ』って」
カナタの方を見ると、なぜかそっぽを向いていた。せっかくリョク様のカッコいい話をしていたのに、カナタはちょっと不機嫌そうだった。
私は小さく息を吐いて、何となく思いついたことを口にした。
「その、空に大陸を作ったのも……
お父さんは、驚いたように目を丸くして、それからにっこり笑った。
「お、莉愛、鋭いな。実はそう言われているんだよ」
「えぇっ!?」
思わず大きな声を上げてしまった。隣でカナタも、目を丸くしてこっちを見ている。
「正確には、赤の賢者、橙の賢者、黄の賢者、それに前任の緑の賢者、紫の賢者の五人だね。青の賢者と藍の賢者は、空中大陸ができた後に就任した人たちだよ。」
『でも……この空中大陸って、できてからもう直ぐ百年になるんですよね? 年齢が……』
カナタが質問をしながら考え込んでしまった。確かに、赤の賢者と橙の賢者はお父さんやお母さんと同じくらいに見えるし、黄の賢者は二十代くらい。
藍の賢者、紫の賢者は三十代くらいに見えるし、それに青の賢者に至っては、十八歳くらいに見える。
お父さんは、苦笑いを浮かべた。
「そうなんだよなあ……。リョク様以外は、世代交代をしていない。賢者たちは空中大陸を維持しなきゃいけないし、みんなの生活を支えてくれているから、何かしらの魔法か精霊の加護で、不老になっているって噂されてるんだ。でも、本当のところは教えてくれないんだよ」
信号が青に変わり、車が静かに動き出す。窓の外を流れる景色を眺めながら、お父さんの話を思い返していると、私は改めて
そのままぼんやりと考え事をしていたら、ふと頭に浮かんだ疑問があった。
「お父さん、私たちが魔法を使えるのは、
ハンドルを握りながら、お父さんが小さく頷く。
「そうだよ」
「じゃあさ、自分自身の魔力って使ってないの?」
私がそう質問すると、お父さんは少し考えてから、穏やかに答えた。
「良い質問だね。自分自身の魔力は、魔法自体には使われていないんだ。どんな魔法を使うかとか、感覚的に魔力を感じることや、あとは
私とカナタは、ジッとお父さんの話を聞いた。
「じゃあ、二人共、自分自身の魔力って結局何だと思う?」
お父さんが、少し挑戦的な目を向けてきた。
カナタが少し考え込み、静かな声で答えた。『自分自身の魔力……か。多分、それは“意志”だと思います。魔法って、ただ力を使うだけじゃなくて、自分の考えや願いを形にするためのものだから』
私もじっと考えてみた。自分の魔力って、一体なんだろう。
「私の魔力は……うーん、“気持ち”かな? 魔法を使う時って、自分の気持ちが一番大事な気がする。嬉しい時も、悲しい時も、魔法の力が強くなる感じがするから」
お父さんは、少し驚いたように目を見開いて、それから優しく微笑んだ。
「……なるほど、二人共、よく考えてるね。カナタ君は“意志”莉愛は“気持ち”どちらも正解だと思うよ。魔力というのは、ただの力じゃなく、心が込められているものだからね」
私たちはお父さんの言葉に、何だか嬉しくなった。魔法って、力だけじゃない。心があってこそのものなんだ。
「自分の魔力を大切にしなさい、そして、魔法を使う時は、しっかりと心を込めることを忘れないで」
『しっかり、込める……』
カナタは何かを深く考えるように腕を組んで、右手を握り本来あるはずの口元に当て、目の前の宙をじっと眺めていた。
カナタが考え事をする時にするクセ。
その静かな仕草からも、カナタが今すごく考えているのが伝わってきた。
お父さんは、信号待ちの間にチラリとこちらを見た。その目はいつもの優しいお父さんのままだったけど、どこか遠くを見ているみたいにも思えた。
「魔法は、心が
「……自分を大事に」
私は、胸の奥に小さく火が灯るような気持ちになった。魔法が特別なんじゃない。私たち一人ひとりの心が、特別なんだ。
『……ねえ、おじさん』
カナタが、少し迷うように声を出した。運転するお父さんの後ろの席から、言葉を探すように続ける。
『じゃあ、もし自分の心が、ぐちゃぐちゃな時に魔法を使ったら……どうなってしまいますか?』
カナタの声は、とても真剣だった。冗談とか、何となく言ったって感じじゃなくて、本当にそう思ってるんだなって分かった。
もしかして、前にそんな経験があったのかな。自分でそういう魔法を使ったとか、そんな人を見たことがあるとか。
私はカナタの横顔をジッと見つめた。カナタは、ただ黙って前を向いていた。しばらくして、お父さんがゆっくりと口を開いた。
「それは……暴走するかもしれないな」
淡々とした声だったけれど、その言葉には、どこか重さがあった。
「でも……どうだろう。ぐちゃぐちゃだと思っていても、実はそれ、ものすごく強い感情の爆発なのかもしれないんだ。痛みとか怒りとか悲しみとか、そういう気持ちが全部混ざって……それが魔法になると、多分、ものすごく強いものになると思う」
お父さんは、前を向いたまま、言葉を続ける。
「強力すぎて……もしかしたら、何かしらの代償があるかもしれない。魔法って、心の力だから。心が壊れそうな時に使うと、代わりに何か大事なものを失うことがあるんだよ」
「じゃあ……やっぱり使っちゃダメなの?」
そう聞いた私に、お父さんはすぐに首を振った。
「ううん、お父さんはそうは思わないよ。例え心がぐちゃぐちゃでも、弱っていたとしても……魔法を使ってもいいんだ。ただね、その時は、自分が今どんな気持ちなのかを、ちゃんと分かっていてほしい」
『……分かってること、か』
隣で、カナタがポツリと呟いた。その声は小さいけど、どこか深くて、胸に残る響きだった。
私は、何となく自分の義手を見つめながら、これまで魔法を使った時のことを思い出していた。楽しかった時、悲しかった時、どうしようもなく不安だった時。あの瞬間、私の魔法は、どんなふうに輝いていたんだろう。
「魔法は、心の鏡みたいなものだからね」
お父さんが、にっこりと笑った。
「自分の心を映して、そのまま世界に送り出す。それが魔法だよ」
すっかり暗くなった道を走る車の中で、私はそっと胸に手を当てた。私の心は、今、ちゃんと温かい。だから、きっと、大丈夫。
カナタの方を見たら、カナタもすぐに気付いて、こっちを見てくれた。何だか可笑しくなって笑うと、カナタの目元がふわりと笑った。それだけで、胸の中がぽかぽか温かくなった。
体育館に着くと、四つのコートをぐるっと囲むようにして並んだ座席に、もうたくさんの同級生たちが座っていた。前の方からどんどん埋まっていって、広いはずの体育館なのにどこか落ち着かない空気が漂っている。 クラスごとにまとまってはいるけど、席順が自由だからか友達同士で小さく笑い合う声も混じっていて、少しだけお祭りみたいな雰囲気だった。私たち五人もなるべく前の方の座席に腰掛ける。 体育館の真ん中に、銀色の支柱で組まれた即席のステージが置かれていた。 その周りを取り囲むように、折り畳みの椅子がずらりと並んでいる。椅子の金具が光を反射していて、何だかちょっと緊張感がある。 私たちが座る席は、床よりも高いところにあった。だから、真ん中の体育館を上から見下ろすみたいに全部見渡せる。座席の下には扉や通路があって、先生や先輩たちが出入りしている。 その中には、生徒会役員の利玖の姿もあった。(そう言えば、生徒会の説明もするって、さっき言ってたっけ)「利玖先輩もいるねっ。生徒会の説明もあるの?」 私の隣に座る拓斗のさらに隣にいる詩乃ちゃんが、体を前に少し倒して顔をひょっこりと見せながら私に尋ねた。「うん、そうみたいっ」 答えながら私は自然と視線を利玖の方へ戻す。即席のステージに立つ利玖は、真剣な眼差しで生徒会役員たちに確認しながら指示を出している。姿勢はきびきびとしていて、周りの役員たちもそれに応えるように頷いたり少し緊張した顔で資料を確認したりしていた。 その中心に立つ利玖の表情は落ち着いていて、どこか余裕すら感じられる。口元に微かな笑みを浮かべながらも、視線は鋭く仲間を見渡し必要な言葉を的確に投げかけているみたい。(まさに、生徒会副会長だ) 兄として知っている、いつもの優しい利玖とは少し違う。みんなを引っ張る姿は頼もしくて、胸の奥にじんわり高揚感が広がっていく。私はその感覚を隠すように、ただ黙って利玖たちの様子を眺め続けた。・・・ 準備が進んできたのか、説明してくれる先輩たちが次々とステージの周りの椅子に座り始めた。 委員会の先輩たちはまだ手元の資料を開いて、隣の人と小声で確認し合っている。ピリッとした空気があって、何だか「ちゃんとしてる」って感じ。 一方で部活動の方はもうすっかりリラックスしていて、笑いながら話している人も多い。そっちはそっちで
私たちが他愛もないお喋りに夢中になっていると、昼休みの終わりを告げるチャイムが教室に鳴り響いた。慌ただしく席に戻る生徒たちの気配の中、私と玲央くんも立ち上がる。 カナタの机に寄りかかっていた私は、そっと横を振り向くと、カナタと目が合った。(バイバイっ) 心の中で呟きながら小さく手を振ると、カナタもほんの一瞬だけ目を軽く見開いた後、小さく手を振り返してくれた。その控えめな仕草にほんのり胸が温かくなる。 自分の席へ戻った私は、窓を背にして椅子に横座りして玲央くんに体を向ける。もう少しだけ昼休みのあの空気を楽しみたかった。「次、体育館だよな? 委員会と部活かぁ、絶対入らないといけないのかなぁ」 玲央くんが、少し気怠そうに呟く。「どうだろうね? もしそうだったら、何に入ろうかなぁ」 私も同じように空を仰ぐ気持ちで答えた。昼休みの余韻と、これから始まる午後の時間。その狭間で、ちょっとだけ時間が止まったみたいに感じた。 教室はどんどんクラスメイトが戻って来て、日向先生が来るのを待つ。・・・ 扉の開く音がすると、教室の視線が一斉にそちらへ向く。日向先生が手に資料を抱えて入って来た。「皆さん、もう席に着いていますね。助かります」 にこやかな笑みを浮かべながら、先生は教壇に立つ。「では、五時間目からは体育館に移動してもらいます。委員会と部活動と、ちょっとした説明がありますので、案内に従って着席してくださいね」(あれっ、出席番号順じゃないのかな?) ほんの少し胸の奥に期待が芽生え、自然と笑みが溢れた。 先生は続ける。「体育館では席は出席番号順ではありません。委員会はともかく、部活動は交流の場でもありますから、相談するために友達とまとまって座っても構いません。その代わり、はしゃぎすぎないこと。私たち教員がしっかり見ていますからね」 日向先生の声が教室に響くと、ふわりとした安堵の空気が広がった。それと同時に、どこか背筋が伸びるような緊張感も漂う。「よかったなっ」 後ろの席から玲央くんが小声で囁きかけてきた。振り返らなくても、ニッと笑っている顔をしているのが目に浮かぶ。私は思わず小さく頷いてしまった。「では、これから配る資料を持って廊下に並んでください。ただし——騒いだら、出席番号順に並んでもらいますからね」 先生が手にした束
それからカナタはいくら話しかけても黙り込んでしまい、教室に着いたらすぐに自分の席に腰を下ろした。 とは言っても、詩乃ちゃんたちと席は近いから、別に何の問題もなかった。私はふぅと小さく溜息を吐いて、カナタの机に寄りかかりながら詩乃ちゃんたちの方を向いた。 私たちより早く戻っていた三人は、楽しそうに話し込んでいた。「瑛梨香先輩……あの人の振る舞いが、まさにあたしがなりたい姿かもしれない……」 優ちゃんは夢見るように目を輝かせて、まだ頭の中に残っている瑛梨香先輩の姿を追いかけているみたいだった。「分かる〜! 瑛梨香先輩、ほんっと綺麗だよね。入学式で初めて会った時も、みんなうっとりしてたもん!」 詩乃ちゃんが、手を胸の前で組んで強く頷く。「確かに綺麗な人だったな。何ていうか……『実は妖精でした』って言われても、信じちゃいそう」 玲央くんが感心したように言う。「あれっ? 信じないんじゃなかったっけ?」 私はすかさず茶化すようにツッコミを入れる。「その信じない俺が信じそうなくらい、綺麗ってこと!」「なるほどっ」 確かに妙に説得力がある言い回しに、思わず私も納得してしまった。 そんなやり取りをしていると、ちょうど食堂から拓斗が戻って来た。「拓斗くん、おかえり〜っ。何食べたの?」 詩乃ちゃんが勢いよく問いかける。「和食」 短くも律儀に答える拓斗。初等部の頃では考えられない雰囲気に、私は少し驚いた。「うまかったぁ?」 今度は玲央くんが拓斗の前の席に寄りかかりながら、ごく自然に問いを重ねる。「あぁ、うん。……誰?」 自分の席に座ろうとした拓斗の視線が、玲央くんに向く。「玲央っ。よろしく〜!」 屈託のない笑顔と共に差し出される言葉に、拓斗はほんの僅かに間を置いてから頷いた。「……よろしく」 その律儀な返事に、何だか場の空気がふっと和やかになるのを感じた。 そしてふと、私はさっき優ちゃんが口にしていた聞き慣れない言葉のことを思い出した。「ねぇねぇ、優ちゃん。『エス』って何?」私が尋ねると、詩乃ちゃんと玲央くんも「知りたい!」って顔をして優ちゃんの方を見る。 拓斗は拓斗で「エス?」と眉を寄せ、頬杖をつきながら不思議そうに目を向けていた。 優ちゃんは小さく笑うと、ゆっくりと説明を始めた。「『エス』っていうのはね、尊敬する上級生
食堂を後にした私たちは、教室へ戻るために鏡に向かって廊下を歩いていた。すると背後から元気な声が飛んできた。「莉愛ーっ、カナターっ!」 私とカナタはお互いが呼ばれたことに小さく驚いて、顔を見合わせてから振り向く。「あっ!」 そこには利玖と瑛梨香先輩、そして隣に初めて見る、多分上級生の男子生徒が立っていた。玲央くんよりもずっと髪が長くて、ひとつに結んでいる。何だか寡黙な人で、どことなくカナタに雰囲気が似ている。 私は利玖に手を振り、瑛梨香先輩と隣の先輩に軽くお辞儀する。カナタも同じように頭を下げた。「こんにちはっ」「こんにちは。ご飯、美味しかった?」 瑛梨香先輩の柔らかい笑顔に、私は自然と顔が綻ぶ。「はいっ、美味しかったです!」 瑛梨香先輩は、ふふっと微笑んだ。 すると利玖が、ふと玲央くんの顔を見つめて目を瞬かせた。何か思い出したように少し目を見開くと、少し間を置いて口を開いた。「あれっ、確か玲央くん、だっけ?」「えっ、すご。もう名前覚えてくれたんですかっ!?」 玲央くんの目が一瞬、キラリと輝いた。先輩に名前を覚えてもらえたことが、玲央くんにはちょっとした自信になったんだと思う。「昨日の歓迎会で喋ったしねっ、さすがに印象は残ってるよ。昨日は楽しかった?」「はいっ! 楽しかったっス!」「それはよかった。てか、莉愛と同じクラスになったの? カナタも?」『そうみたい』「すげーな。全クラス二百組あるんだぞっ?」 利玖は信じられない、という顔で目を丸くして笑った。 その表情に、思わず私もクスッと笑ってしまう。二百組もの中で偶然同じクラスになるなんて、確かに運命みたいだな、と心の中で呟いた。 利玖が瑛梨香先輩たちに私たちを紹介して、その後私たちにも先輩たちを紹介してくれた。「莉愛は知ってるよな。生徒会副会長の瑛梨香と、こっちも生徒会副会長の学」 瑛梨香先輩と学先輩は、揃ってペコリと頭を下げる。私たちも自然にお辞儀を返した。「生徒会副会長って、三人もいるんすね」 玲央くんは目を丸くして驚いた様子で呟く。それを聞いた瑛梨香先輩と利玖は、ふふっと微笑んだ。「いいえ、七人よ」「し、七人っ!?」 玲央くんの声が少し高く弾んで、思わず私もクスッと笑う。副会長の人数の多さに、廊下の空気が少しざわついた。「まぁ
「あ、何。カナタも、芽依ちゃん知ってんの?」 玲央くんは口に含んだ麻婆豆腐を飲み込んで、カナタに問いかけた。『まぁ、今日初めましてだったけど』 中身が減って小さくなったパックを、綺麗に潰れるようにギュッギュッと器用に潰しながらカナタは答える。「……協力者は、多い方がいいよな。カナタ、俺は芽依ちゃんと仲良くなりたい。協力してくれ」 カナタは目を見開いて、玲央くんを凝視した。『……はぁ。…………なるほど』 カナタは玲央くんをジッと見て、すごい間を置いて反応した。何か深く考え込んでたみたい。 するとカナタはパックを飲み干したようで、チョーカーから空になったパックを取り外した。ぺたんこになったパックに蓋をして小さく丸める。 そして今度は金属製のストローをチョーカーに差し込み、また肘をつきながらアイスコーヒーをスッと飲み始めた。 私はもう見慣れた光景だけど、その手際の良さに玲央くんはまた目を輝かせる。『……協力って言っても、何をすればいいの? 今日会ったばかりだから、玲央のことも芽依ちゃんのことも何も知らないけど……』 カナタは足を組んで、アイスコーヒーのグラスを軽く揺らしながら首を傾げる。「まぁ、俺らはこれから仲良くなるとしてさ。芽依ちゃんのことは莉愛ちゃんから聞けばいい。で、芽依ちゃんと関われそうなタイミングが来たら……うまーく繋いで欲しいっ」 玲央くんはお皿の麻婆豆腐をかき集めながら、自信満々というよりも楽しそうに笑いながら言った。『……なるほど。何となく分かったよ』 玲央くんの言葉にカナタは「そんなもんでいいのか」とでも言いたげに、アイスコーヒーを持つ手と反対の手で頬杖をついた。その温度差が少し可笑しくて、私は小さく吹き出してしまった。『……そんな瞬間が僕に来るかは分からないけど、もし来たら玲央を呼べばいいんだね?』「自然になっ!」 勢いよく言い切る玲央くんに、カナタはほんの僅かに肩をすくめて答えた。『努力します』 その落差がまた面白くて、私はオムライスを口に含みながら笑いを堪えるのに必死だった。 ……そう言えば、玲央くんはいつの間にかカナタを呼び捨てにしていた。それを咎めることもなく、寧ろ当たり前のようにカナタも玲央くんを呼び捨てにしている。 この短時間でもうこの距離感になったのかと感心する。だけどそれが違和感にならな
「ねぇねぇ、ダメ? もっと話聞きたいんだけど!」『えーっと……』 カナタは初めて向けられる“好意的な誘い”に、どう答えていいのか分からないようだった。(これは、私は口出ししない方がいいよね) これはカナタが自分で決めること。でも、不安そうなカナタの背中を少しでも押せるように、「大丈夫だよ」って気持ちを込めて微笑みかける。 玲央くんなら、絶対にカナタを傷つけたりしない。まだ会ったばかりなのに、不思議とそう思えた。(またこれも勘、かな?) カナタがチラリと私を見て目が合うと、カナタの目元がほんのり安心したように緩んだ。そして——『……僕の食事は流動食だから。食堂のメニューは食べないよ。……一緒に食事って感じはしないと思うけど』「いいのいいのっ! 喋りたいだけだから! あ、もしかして見られるの嫌?」『いや……僕は別に』「じゃあ、一緒に食おうぜ〜! 莉愛ちゃんも来る?」 玲央くんが勢いで私まで誘ってくる。頭の中でカナタが質問攻めにされる未来が見えるから、私は苦笑して頷いた。「じゃあ……そうしよっかな」『……じゃあ、ちょっと待ってて』 カナタは教室に戻り、学生鞄から流動食のパックとチョーカーに繋げるストローが入ったケースを取り出す。ついでに机に入れていた教科書も、ロッカーにしまって戻ってきた。「よーしっ、じゃあさっさと行こーぜ!」 玲央くんは自分の教科書を勢いよくロッカーに突っ込み、私とカナタの肩を軽くポンッと叩く。その軽さに押されるようにカナタと顔を見合わせ、食堂へ行くために玲央くんの後に着いた。 ——階段の踊り場。そこには、鏡を前に躊躇して足を止めた生徒たちが大勢集まっていた。「ちょっと通るよ〜」 玲央くんが人混みを掻き分けると自然と道ができる。その後ろを私とカナタは通って行く。「えぇっと……行きたいところを思い浮かべるんだよな。《食堂》でいいのかな? それとも《別館》?」『……《食堂》でいいと思うよ。食堂の近くに鏡がたくさんあったから』 そう言うと、カナタの魔械面から“キンッ”と音が鳴り、カナタが鏡に手を触れる。次の瞬間、鏡が静かに波打ち、カナタの体を飲み込んでいった。「「わぁ……っ!」」 近くで躊躇っていた生徒たちが、一斉にざわつく。「へぇ〜、んじゃ俺も!」 玲央くんは右足の魔械義肢